禅語あれこれ②

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今回は、まず美しい漢詩の一節を紹介しましょう。


「長えに憶う 江南三月の裏 鷓鴣啼く処 百花香し」

“とこしなえにおもう こうなんさんがつのうち しゃこなくところ ひゃっかかんばし”
 


『無門関』第26則、離却語言(りきゃくごごん)の風穴(ふうけつ)和尚の境地です。

風穴和尚に、ある時一人の僧が問いました、
「語も黙も離・微(り・び)の相対、実在の半面しか示すことができません。
 語っても黙しても、実在そのものに通じるにはどうすればよいのでしょうか」
 
風穴は、
「いつも懐かしく憶いだすのだが 江南は春三月ともなると 鷓鴣が鳴き 百花が咲き乱れる」
 という詩を朗々と吟じました。
 
この美しい詩は、唐代の詩人杜甫の作であり、中国において最も風光明媚といわれる
揚子江南岸の駘蕩たる春の景色を詠じたものです。

私なら、「アイ レフト マイ ハート イン サンフランシスコ…」と、
十八番の『思いでのサンフランシスコ』でも歌うところでしょう。



離・微とは仏教的世界観を説く言葉で、
「離」は、一切の言葉による区分を離れて平等の一なる地平に帰すること。
「微」は、その一なる地平から無限にはたらく現象の多様性を言います。

この僧は、
言葉を使っても沈黙するがごとく、沈黙しても言葉を使うがごとく、
平等の一なる地平にありながら、区別の言葉を生かすところの境地を質問したわけです。


私たちは、うかうかすると言葉を使っているつもりで言葉に使われてしまいます。
言葉で名辞された世界を実在のリアルな生と取り違えてとらわれ、
あれこれの思いに思いをかさねて迷うのです。

文明人とは、言葉により構築された幻想の価値体系の世界にとりこまれて迷っている
「さまよえる子羊」かもしれません。
「迷う」というのは「思いの世界で迷う」のであって、前後際断して思いを断ち切れば
迷いは吹っ切れ大地に帰し、自然児の原初の生命力がよみがえります。


このように、言葉による思いの迷いの世界に取りこまれず、原初の一なる地平から離れないで、
しかも自由に言葉を使うところの境地をこの僧は問うたわけです。



ところで、禅で「いまここが人生の本番」といっても、
時間・空間に限定された「いまここ」の一点だけに生きよというのではありません。

「いまここ」の生に成りきり徹底することで、「いまここ」の底を破り、時空を越えた
永遠の生に踊りでよというのです。


ですから、過去を憶い未来を想い、また想像の世界に飛翔することは、
「いまここ」を基点としながら時空を越えた命の広がりを感得することです。


風穴和尚が吟じた
「長えに憶う」の「憶う」には、原初の一なる世界の騰々たるエネルギーが感じられます。
原初の一なる世界から言葉が出され、その言葉がまた一なる世界に溶けこんでゆく、
素晴らしい境地です。


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この記事へのコメント
初めまして、こういったブログに書き込みするのも初めてです(*^_^*)
この前<マンガ>禅入門という本を読みまして、《五知円》:われ ただ足るを知る:という言葉に何か魅かれるものがありました。今の私の心が満たされていないからですかね・・・(~_~;)
和尚さんのこと、阿部さんのブログで知りましたので、応援をかねて書き込みさせていただきました。これからもいろいろ教えてくださいね!宜しくお願いいたしますm(__)m
Posted by 薫 at 2007年10月10日 00:49
お久しぶりです。
実は、先日ガンを患いまして、いろんな経験をしました。

現在は、自宅で療養しています。

人生の意味・・・の空虚さに心が荒む時もありますが、一日を大切に心を込めて生きているところです。

また、ぜひお会いしたいと思っています。
Posted by いのうえ51 at 2007年11月09日 17:11
お久しぶりです。
この数ヶ月、メールもHPもチェックしていませんでしたので失礼しました。

私も是非お会いしたいと思います。
東京に行くことがあれば連絡します。

連絡は会社の方でいいですか? 

ご自宅の住所、電話差し支えなければ連絡ください。

祥光寺は、下記の通りです。
〒435-0025 浜松市南区老間町240、 ℡053-425-2593

先日、浜松経済クラブの若い人達が方広寺に来て、「真実のリーダーとは」
というテーマで研修をしました。
それでちょうど、剛ちゃん(天河以来の友人として)のことなど懐かしく思い出していたとこです。
Posted by むかい at 2007年12月17日 21:18
黙っても語っても実在そのものに通じているのではないでしょうか
Posted by 朔 at 2012年04月06日 11:34
「離微」は、「小学館の新選漢和辞典、第五版の1121ページ下段では「りみ」と記載されています。正しい読み方は、何ですか?
Posted by ライゾウ at 2015年01月21日 16:59
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    コメント(5)